滑舌の改善法8 ラ行

今回はラ行=「らりるれろ」について解説していきます。
ラ行は多くの人に取って一番噛みやすい音なのではないかと思います。
得意になれば逆に武器になりますので、しっかり練習していきましょう。

ラ行の子音は「はじく」音

ラ行は基本的に、舌の前側で口の上部(歯茎〜硬口蓋)に触れ、弾くように素早く離す際に音を出します。この動きをスピーディに行う必要があるため、特に舌は俊敏な動きを要求されます。ラ行の音が続くとまるで舌がもつれるような感覚があるのは、実際に運動量が多いためなのですね。

「素早く」という言葉を使いましたが、ではそれってどれくらいでしょうか。
少し実験をしてみましょう。手鏡があれば実際に見てみるのもオススメです。

舌のスピードとラ行の関係性の実験

まず「ラ」と普通に発声してみて動きを観察します。
発音する際に一度舌が口の上部に触れて離れる動きがわかるのではないかと思います。

次に、舌が触れているポジションで、舌を離さずに音を出してみましょう。「ウー」といううなり声ような、言葉にならない音で大丈夫です。

音を出したままゆっくりと舌を離していき、そのままアゴを開いて「ア」を発音します。「ゥウーーァァア」というように、だんだんと変わっていく音のグラデーションを聞いてみましょう。
ゆっくりやると、あまりラ行の音には聞こえないのではないかと思います。

同じことを繰り返しながら、段々と舌の離すスピードを速めていきます。
スピードを上げていくうちに、いつの間にか「ラ」っぽい音に聞こえてきませんか?

舌を離すまでのスピードが速くなれば、舌で息を妨げる時間が短くなります。これがラ行を発音する際のひとつのポイントです。速くラ行を喋ろうとすると、もともとスピードが必要な音なのに、舌はさらに速さを要求されるため、よほど滑らかに動く能力がないともつれてしまいます。走っている時にスピードを出しすぎて、足がついて来れずに転んでしまうようなものですね。

滑らかに舌が動くように、普段から速いスピードでラ行の言葉が言えるように練習をしておきましょう。

多様なラ行

先ほど、ラ行は「舌先で弾く」という表現をしましたが、実はラ行では多彩な音が使われていることが指摘されています。関連して、少し英語のR/Lとラ行の関連についてお話します。

「日本人は英語の「R」と「L」の発音苦手」とよく言われています。英語のRとLは「流音」と分類されており、それぞれに明確に違う音ですが、流音には「息を舌で阻害するが、阻害している間も息が流れ続けている」という共通した特徴があります。Rは口の奥の方で舌が狭めを作り、Lは舌を口の前側にくっつけて音を出します。どちらも舌で息を阻害しますが、完全にせき止めるなくではなく流れ続けています。

一方で日本語では、ラ行だけがこの流音に分類されています。つまり日本人には流音=ラ行という回路が出来上がっているわけです。日本人にRとLが聞き分けられないのは、この流音が全部ラ行として認識されることに原因があります。readもleadも「リード」というわけですね。

逆に言えば、日本人がラ行を発音する時、子音がRっぽくてもLっぽくてもちゃんとラ行として聞こえてくれます。なので、人によってはラ行の出し方が微妙に違っている場合があります。なので、あまり正確な出し方にはこだわる必要はありません。

大事なのは短い時間息を阻害して音を変化させることです。
また、それを実現する手段として「舌ではじく」という動きが合理的で聞きやすい音が出せるということです。

子供はラ行が苦手?

言葉を覚えたばかりの小さな子供はラ行があまり明瞭に発音できません。
例えば「有る」は「ありゅ」だし、「居る」は「いりゅ」と発音している子供をよく見かけます。

微笑ましい光景であると同時に、これはある程度舌をスピーディに動かせるようにコントロールする能力が未発達なのからではないかと興味深くもあります。

逆に表現者としては、ラ行を甘めに発音することでそういう要素を強調するといった使い方もできますね。

滑舌の改善法6 ハ行

滑舌の改善法4 ハ行
今回はハ行=「ハヒフヘホ」について解説していきます。

ハ行は「無声の摩擦音」

無声=声帯の振動を伴わない音
摩擦音=息の通り道の”狭め”によって発生する音

ハヒフヘホでそれぞれ狭め方が多少変わってきますので、細かく見ていきます。

ハヘホ → 声道
ヒ → 舌と硬口蓋
フ → 両唇

「ハ・ヘ・ホ」では、口の中では特に動きがありませんが、声道(声の通り道)で狭めが起こります。口や顎や舌を同じ形にして「ハ」と「ア」を交互に発声してみましょう。簡単にできるのではないかと思います。これは「ハ」と音を出すために口の中で狭めを作る必要がないからです。(へとホも同様です。)
「ハ・ヘ・ホ」を出す時に舌などは母音と同じ動きをすればいいということを掴んでおきましょう。

「ヒ」と「フ」は、口の中で狭めを作ります。
しかし、後続の母音のポジションに非常に近いため、あまり大きな動きは必要ありません。後続の母音のポジションで軽くを息の音を出せば十分です。
ただし「フ」は「ウ」よりも若干唇の狭めが必要かもしれません。(「ウ」で唇をすぼめる人はそのままでも大丈夫ではないかと思います。)

ハ行は息の”キレ”が大事

前述の通り、ハ行は実は母音と同じような口の形で発声するので口の動きはとても単純です。しかしハ行が苦手な人はとても多いです。なぜでしょうか?

原因の一つは「息の使い方」にあります。

「ハヒフヘホ」と続けて声に出してみましょう。一つ一つの音がクリアに聞こえていればOKですが、ハヒフヘホの音が繋がってしまって、ダラダラと流れて明瞭に聞こえないような場合は練習が必要です。

ハ行の改善に有効なのはスタッカートでを練習することです。
はじめは「ハッ」「ヒッ」「フッ」「ヘッ」「ホッ」と、一つ一つの息をしっかり吐いて、音を区切って出してあげると良いと思います。小気味よくリズミカルに、少しづつスピードをあげて行きましょう。最終的には「ハヒフヘホ」と繋げて言えるようになるまで練習します。スピードをあげて繋げて読んでも「ハ・ヒ・フ・ヘ・ホ」の一音一音の間にほんの一瞬の切れ目があると、明瞭でキレのいい発音になると思います。

笑い声

ハ行の特徴は何と言っても笑い声に使われるということです。
ハ行には母音とほぼ同じ口の形で発音されるという性質があるので、感情が作り出した息の流れ摩擦を生み出し、自然とハ行の音が生じるのではないかと思います。

つられ笑いをした経験がある方も多いのではないかと思いますが、しっかりと息を吐いた豪快な笑い声は、周りを巻き込むほどのエネルギーを持ちます。

実は大して難しくないハ行の発音を理解して、滑舌に邪魔されずに表現のためにエネルギーを使っていきましょう!

滑舌の改善法4 タ行

今回はタ行=「たちつてと」について解説していきます。
タ行の音は続くと噛みやすい印象があります。しかしタ行の音がキレイに聞こえると音の歯切れもよくなり、子気味良いリズムを生み出すことができます。
練習して習得していきましょう。

タ行の子音は「破裂」を伴う音

タ行の子音(以下t音)は破裂を伴う音です。
破裂というのは、一度息の流れを完全にせき止めて、そのせき止めが解放することを指します。つまり、タ行の音を出す一瞬前には、音が完全になくなる瞬間が生まれます。

例えば「温かい」という言葉を例に取ってみると、はじめの「あ」と、次の「た」の間には、一瞬音が消える瞬間が発生します。このONとOFFの切り替えがハッキリしていることが、タ行のリズミカルさに繋がっていると言えると思います。(ちなみにカ行も破裂する音です)

バラエティ番組で聞かれる「テッテレー」というジングルがあります。よく口で言ってるのも聞かれますよね。
これを試しに「マッママー」って言ってみたらどうなるでしょうか?
ニュアンスが変わってきてなんとも締まらない感じがしないでしょうか。

破裂音は、リズミカルなフレーズと非常に相性が良いことがわかるのではないかと思います。

「破裂音」と「破擦音」

タ行の子音は「破裂音」と「破擦音」の2種類に分類されます。

タ、テ、トの子音:破裂音
チ、ツの子音:破擦音

破裂音は、一度せき止められた息が解放された時に発生する音です。
破擦音は、破裂音が生じた直後に摩擦音を続けて出します。

タ、テ、トの子音は破裂させたら終わりですが、チ、ツの場合は、破裂音の後に摩擦音を続けて出します。破裂音+摩擦音=破擦音ということですね。摩擦音についてはサ行のエントリで解説していますのでそちらもご覧ください。

調音点

調音点(音を生み出す場所)は、歯茎と舌の前部(前側〜舌先)が主に活躍する場所です。舌の前部が歯茎に接することで息をせき止めて、解放することで破裂音を生み出しています。破擦音であるチ、ツの場合は、その後に舌と歯茎の間で摩擦音を生じます。

タ、テ、トの音とチ、ツの音を一つずつ出して、音や舌の動きを観察してみましょう。チ、ツの音はより息の音を多く聞き取れると思います。

一方で、唇や顔の筋肉の仕事はあまり多くありません。
スムーズに舌を動かして、子気味よくリズミカルに、楽しくタ行の音が鳴らせるように練習しましょう。

早口言葉

原理がわかったら実践あるのみ。チャレンジしてみましょう!

父と土の血みどろの戦い
チチカカ湖湖畔で慎ましく咲くツツジの花

どうでしたか?苦手な方は練習してみてくださいね。

余談:「父」のアクセント

これは全く滑舌とは関係がありませんが「父」という単語はアクセントが揺れている言葉の一つだなぁと思っています。

皆さんは「父」という言葉をどのように発音されますか?
NHKのアクセント辞典には「尾高型」と記載されています。
尾高型というのは、言葉の語尾の音が高くなるアクセントのことを指します。

助詞が付属するとわかりやすいのですが「父が」という言葉を、尾高型のアクセントで発音すると「チ(低音) チ(高音) ガ(低音)」になるということです。「旅が」と同じアクセントと言えばわかりやすいかもしれません。

一方で、最近は「父」を頭高型で発音する人が増えてきたという印象があります。頭高型は語頭の音を高くしますので「チ(高音) チ(低音) ガ(低音)」と発音します。「足袋が」と同じアクセントです。

頭高型の「チチ」という言葉は、従来は「乳」に当てられていたアクセントです。ですので「父」を頭高型で発音してしまうと、父と乳が同じ音になってしまいます。父親とオッパイのどちらを指すのかは大体文脈で理解できるので困ることはあまりないのでしょうが、個人的にはびっくりしたことがあります。

言葉は変わるものですし地方によっても違うので、何が正解ということはないのですが「従来は尾高型が一般的だったけど、最近は頭高型で言われがち」ということを知っておくと、アナウンサーなど言葉のプロは覚えておくと良いかもしれませんね。しかし、なんでこういうことが起こるかは不思議だなぁと興味深く感じます。

他にもこういうこと思ってる人いるかな?と思って検索してみたら、松尾貴史さんのコラムが出てきましたのでこちらもご紹介しておきます。ご興味あれば一読されると良いのではと思います。
https://mainichi.jp/articles/20170723/ddv/010/070/008000c