喉詰め発声を抜け出す

一般的に、良い声を出すためには”喉をひらく”ことが重要であると言われています。一方で、悪い声を表す言い回しとして”喉をつめる”や”喉をしめる”という言葉があります。

小劇場で必死になって声を出している俳優や、カラオケで自分の音域を大きく超えた歌を歌おうとしている人などに見られますが、まるで喉を絞められているかのように必死の形相で声を絞り出している姿を見ることがあります。このエントリでは、このような声の出し方を”喉詰め”と表現し、いかに喉詰めを脱却するかということを書いていきます。

喉詰め発声は、出している本人にとって苦しく、喉を痛める原因にもなります。
また、聞いている人にとってもあまり良い気持ちではありません。喉詰め発声を抜け出して、伸びやかで自由に表現できる声を育んでいきましょう。

喉を詰めるってどういうこと?

簡単に言えば、喉周りの筋肉を強く使いすぎることで、喉の空間を狭めてしまうことです。これによって息の流れが妨げられますし、響きも悪くなってしまいます。

1つ動画をご紹介します。
これは様々な種類の声を出している時の喉頭(のどぼとけの辺り)を上から内視鏡で覗いている図です。(※苦手な人は無理に見なくても大丈夫です。)

クリアな声を出している時と、喉詰め的な声の時には空間の広さが大きく異なるのがわかると思います。

以下は動画から部分的に抜き出した画像です。
通常時と、高音で絶唱している時の喉の違いがよくわかりますね。

通常の声
高音絶唱

この動画の方の場合は狙ってこういう音を出しているので、悪い例というわけではありません。むしろ、通常の音の響かせ方を逆手に取って、意図的に人間らしくないサウンドを生み出すことに成功しています。

こういった声の出し方も非常に興味深いですが、今回は「喉詰め発声から抜け出す」がテーマですので、ここでは喉詰め発声をしている時は、緊張によって喉を絞めつけていることを理解いただければと思います。

喉詰め発声の弊害

では喉詰め発声は何がいけないのでしょうか?
いくつか問題点を列挙してみます。

・苦しげに見える、聞こえる。
緊張状態が強いために、顔は必死で動きが硬く「頑張り」が強く現れるので見ていて苦しさが伝わってきます。音も苦しいので、あまり聞きたくないと思われてしまいます。

・実際に苦しい。
声を出している本人も必要以上にパワーを使っているので、実際に苦しさを感じます。

・体全体の動きが硬くなる。感覚が鈍くなる。
首回りの過緊張は、全身の動きに悪影響を及ぼし動きを制限します。また、外部からの情報を受け取りづらくなってしまうので、周囲の状況と切り離されてひとりよがりな表現になりがちになります。

・喉を痛める。
過緊張で喉が狭く、共鳴が悪くなり声が弱くなります。
しかし喉を詰めてまで声を出したい時というのは、往々にしてパワーが必要な画面です。例えば歌の一番盛り上がるところや、セリフで感情が強く出るシーンなど。
鳴りが悪くなっているのにパワーが必要なので、息を強く送り出すことで解決を試みます。その結果、過度な負担を受けた声帯がダメージを受けてしまいます。

解剖学的にさらに補足すると、喉詰め発声の時には喉頭の引き上げが起こっています。喉頭の引き上げは普段の生活では物を飲み込む時に重要な動きです。それは、喉頭を引き上げることで喉頭蓋で気道にフタをして、食べ物や飲み物が気道に入らないように防いでくれているからです。

物を飲み込む時の喉頭の動きを動画で見てみましょう。

ゴクリと飲み込んだ時に、喉仏がぐっと上に引き上げられるのがわかるかと思います。この喉頭が引き上げられている時、喉頭蓋が気道にフタをします。
物を飲み込む時には屋根のように気道を守ってくれますが、声を出す時にはそのフタが邪魔になってしまいます。音の通り道に邪魔者があったらどうなるか、想像は容易いですよね。

どうして喉を詰めてしまうのか

原因は人それぞれなので一概には言えませんが、特に声のパワーが必要な時に、力任せに声を出してしまうことが挙げられます。

例えば経験の少ない俳優が、大きな声を出すシーンを演じる場合などですね。
声が小さいと演出家から「声が小さい!」とNGをもらうことになります。未熟な俳優は全身の力を振り絞って、喉を詰めてあらん限りの声を張り上げてようやくOKをもらう、そしてその体験が「こうやって大きい声を出すんだ」という習慣を作り出して行く、ということが起こります。

強い声を出すために息を早く大量に吐くというのはひとつの(乱暴な)やり方です。しかし息が強い分だけ、喉にも支えが必要になります。本来は喉頭を引き下げる筋肉や引き上げる筋肉など、多くの筋肉がバランスを取って支えを作る必要がありますが、そういった能力が発達していない場合に、物を飲み込むという使い慣れた動きで代替して、喉を引っ張り上げて強引に支えを作ってしまうのではないかと思っています。

どうしたらいいのか?

アゴの力が抜けて緩んでいると、かなり改善されます。
声を出す時に、アゴがラクに開きながら声を出す。これだけでも喉詰めを防いでくれます。一つエクササイズを紹介します。

普段から噛みしめるクセがある場合などは、意識的にアゴを緩めるだけでも発声はかなり変わってきます。

当然ことばを作るためにはアゴの動きが必要ですが、まず自由なアゴを準備しておき、そこからことばを作るのに必要なだけアゴを使ってあげましょう。アゴは言葉を作るのには使いますが、良い声を響かせるためには、なるべく休んでいてもらいたい部位です。普段から喉詰めの習慣がある方は、一旦アゴを緩めきって、まともな言葉を喋れないぐらいフニャフニャなまま喋ってみても面白いと思いますよ。

それでも喉詰めの傾向が強い方は、今度は舌、顔、をリラックスさせて声を出す方法を身につけていきましょう。首から上はリラックスが大事です。(リラックスとは緩みきった脱力ではなく、しっかりとハリがあり、いつでも準備ができていることです。)

一方で声のパワーを作り出すのは呼吸。なので、物理的には胴体に働いてもらう必要がありますが、さらに大事なのは大きな声を出す”欲求”にあります。その欲求が呼吸を生み、結果としてパワーが生まれます。その時に、アゴや舌や顔は、柔軟で、その欲求から生まれたパワーを妨げないことが自由な発声をする鍵になります。

まとめ

対症療法的な喉詰め防止:アゴを緩めて自由にする

根本的に発声を改善したい場合は、部分ではなく全身で、さらに感情など精神的なもの含めて自分のすべてが有機的に結びついて声を出す能力を育てる必要があります。
アゴだけでなく、舌、顔、首、呼吸その他すべてを自在に使えるように日頃から基礎練習をすることや、感じたことを素直に声にできるようにハードウェア・ソフトウェアの両面から訓練をしましょう。

参考

喉頭蓋の解剖学的特徴に基づく嚥下咽頭期における運動の実際(川 上 嘉 明、 小 泉 政 啓、 秋 田 恵 一)
https://www.tau.ac.jp/outreach/TAUjournal/2014/02-Kawakami-1.pdf

うたうこと(フレデリック・フースラ、/イヴォンヌ・ロッド=マーリング/訳:須永義雄、大熊文子)
「医師」と「声楽家」が解き明かす発声のメカニズム(萩野仁志、後野仁彦)

滑舌の改善法6 ハ行

滑舌の改善法4 ハ行
今回はハ行=「ハヒフヘホ」について解説していきます。

ハ行は「無声の摩擦音」

無声=声帯の振動を伴わない音
摩擦音=息の通り道の”狭め”によって発生する音

ハヒフヘホでそれぞれ狭め方が多少変わってきますので、細かく見ていきます。

ハヘホ → 声道
ヒ → 舌と硬口蓋
フ → 両唇

「ハ・ヘ・ホ」では、口の中では特に動きがありませんが、声道(声の通り道)で狭めが起こります。口や顎や舌を同じ形にして「ハ」と「ア」を交互に発声してみましょう。簡単にできるのではないかと思います。これは「ハ」と音を出すために口の中で狭めを作る必要がないからです。(へとホも同様です。)
「ハ・ヘ・ホ」を出す時に舌などは母音と同じ動きをすればいいということを掴んでおきましょう。

「ヒ」と「フ」は、口の中で狭めを作ります。
しかし、後続の母音のポジションに非常に近いため、あまり大きな動きは必要ありません。後続の母音のポジションで軽くを息の音を出せば十分です。
ただし「フ」は「ウ」よりも若干唇の狭めが必要かもしれません。(「ウ」で唇をすぼめる人はそのままでも大丈夫ではないかと思います。)

ハ行は息の”キレ”が大事

前述の通り、ハ行は実は母音と同じような口の形で発声するので口の動きはとても単純です。しかしハ行が苦手な人はとても多いです。なぜでしょうか?

原因の一つは「息の使い方」にあります。

「ハヒフヘホ」と続けて声に出してみましょう。一つ一つの音がクリアに聞こえていればOKですが、ハヒフヘホの音が繋がってしまって、ダラダラと流れて明瞭に聞こえないような場合は練習が必要です。

ハ行の改善に有効なのはスタッカートでを練習することです。
はじめは「ハッ」「ヒッ」「フッ」「ヘッ」「ホッ」と、一つ一つの息をしっかり吐いて、音を区切って出してあげると良いと思います。小気味よくリズミカルに、少しづつスピードをあげて行きましょう。最終的には「ハヒフヘホ」と繋げて言えるようになるまで練習します。スピードをあげて繋げて読んでも「ハ・ヒ・フ・ヘ・ホ」の一音一音の間にほんの一瞬の切れ目があると、明瞭でキレのいい発音になると思います。

笑い声

ハ行の特徴は何と言っても笑い声に使われるということです。
ハ行には母音とほぼ同じ口の形で発音されるという性質があるので、感情が作り出した息の流れ摩擦を生み出し、自然とハ行の音が生じるのではないかと思います。

つられ笑いをした経験がある方も多いのではないかと思いますが、しっかりと息を吐いた豪快な笑い声は、周りを巻き込むほどのエネルギーを持ちます。

実は大して難しくないハ行の発音を理解して、滑舌に邪魔されずに表現のためにエネルギーを使っていきましょう!

滑舌の改善法5 ナ行

今回はナ行=「なにぬねの」について解説していきます。

ナ行は「鼻音」

ナ行子音の大きな特徴は、鼻から息を通すことで発声する鼻音であるということです。

鼻から息を通すか通さないかは、軟口蓋によってコントロールされます。鼻音以外の音声を発する場合は、軟口蓋を引き上げることで息の通り道を塞ぎ、鼻へ息が抜けないようにしています。一方、鼻音を発声する場合は、軟口蓋が降りたまま、鼻へ息が抜ける状態で音を出します。(軟口蓋についてはカ行のエントリもご参照ください。)

ナ行の子音であるn音を鳴らしている間に軽く鼻に手を当てると、鼻の振動を感じられると思います。軽く「ン〜」とハミングをしながら鼻に触れて振動を味わってみましょう。また、他の音と比べて鼻音の響きを味わってみてください。

また、ハミングの「ン」から、母音の「ア」に繋げて鼻の振動の変化を確かめてみましょう。ハミング中は鼻の振動が感じられるが、母音「ア」に移行すると鼻の振動はあまり感じられなくなったのではないでしょうか。

鼻音である子音を鳴らしている間は軟口蓋が下がっており鼻に息が抜けますが、母音「ア」に変わると軟口蓋が引き上がり息が鼻に抜けなくなるため、鼻での振動が弱まります。

仮にずっと鼻に息を抜き続けると、いわゆる「鼻にかけた声」というような声を出すこともできます。

調音点は上歯茎と舌前部

n音を鳴らす際には鼻に息を通すとともに、口内では舌の前部を上の歯茎に触れて息の流れを妨げています。

口内で舌前部を歯茎に触れて息を妨げつつ、息を鼻に通すことでn音は作ることができます。

なお、前後の音によっても若干調音点は変わってきます。例えば母音のイがくっついて「に」と音を出す際は、歯茎というよりも硬口蓋に舌が触れます。ここでは、ナ行子音を発声する際は口内では舌の前側と、上の歯の後ろの部分が触れ流ということを押さえておきましょう。

鼻づまりとナ行

ナ行は鼻音であり、鼻に息を通す必要がありますから、風邪やアレルギーなどで鼻詰まりや鼻炎など鼻の状態によって発音が左右されてしまいます。
鼻が詰まったままだと「なにぬねの」と言ったつもりが「だぢづでと」に聞こえてしまったりします。滑舌も不明瞭になり音の響としても不利になりますから、鼻の調子が思わしくない時は、早めに耳鼻科を受診しておくのが良いでしょう。

特に慢性的な鼻炎で鼻が狭くなっているような場合は、耳鼻科でしっかり治療をしておくことが声にとってもプラスになることが多いと思います。また、鼻内が狭い等構造的な問題がある場合は、手術によって改善される場合もあると聞きます。問題があると思われる場合は、耳鼻科の先生に相談してみる価値があります。

滑舌の改善法3 サ行

今回はサ行=「さしすせそ」の改善法についてです。
サ行が苦手という方はとっても多いです。(私もその一人でした。)
ですが、しっかりとやり方を学んで練習すれば絶対に良くなります。諦めずに取り組んでいきましょう。

さて、今日も早口言葉から。音読してチェックしてみてください。

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つっかえても気にしなくて大丈夫です。
課題が明確になったという意味で、成長への道を順調に歩んでいると考えればいいです。そこから良くしていきましょう。

サ行の子音は「摩擦音」

サ行の子音は摩擦音に分類される音です。
摩擦音とは、調音器官の働きで息の通り道を狭め、そこを気流が通過することで発生させる音です。
例えば息をフーッと吹いている間に、手で筒を作ってそこに息を通すと、音が変わるのがわかるかと思います。このように、息の通り道を狭くすることで音を作るのが、摩擦音の原理ということを覚えておきましょう。

どうやって音を作るのか?

サ行の子音は摩擦音であり、摩擦音は息の通り道を狭めることで作る、ということは先述の通りです。では実際にどうやって子音を作るのか?

サ行の子音は、舌の前側が口内の上部に近づくことで、息の通り道を狭めて発音しています。

この時、特に舌先よりも周辺部分が上に持ち上がります。
舌先を下の歯の裏側につけたままサ行を発音してみると、その動きが観察できるのではないかと思います。

細かい話をすると、サ行の中でも子音は全て同じではなく、微妙に違いがあります。
「サ」「ス」「セ」「ソ」は、舌が上の歯茎に近づくため無声歯茎摩擦音と呼ばれています。
一方で「シ」は、舌が歯茎の後部に接近するため、無声硬口蓋歯茎摩擦音と呼ばれているようです。

とは言え、音の作り方は、厳密に言えば前後の音によって微妙に違ってきますので「シは絶対に舌端が奥歯茎に近づけて出さないといけない」というようなレベルで、厳密に行う必要はありません。大事なことは、サ行の子音(便宜上「s音」とします)を発音するためには、舌の前部の周辺が口の上側に近づいて摩擦音を生じる必要がある、という要点を知っておくことです。

こういった知識を持っておくことで、誤った発声に陥る危険から身を守り、自分の発声を改善させていくことができるようになります。また、やり方を固定しすぎると表現の固定にも繋がる危険もあります。

また、無声とつくのは、声帯の振動を伴わないということです。
これはカ行の子音と同じですね。(ザジズゼゾは有声音になります。)

s音の発声を練習する

原理がわかったら練習に移ります。
まずは言葉にする前に、子音だけの発音を練習します。

「s音」だけを発声します。
自転車の空気入れから音が出るような、「スーッ」という音です。

舌の前部が柔らかく持ち上がり、息が流れ、s音を出してみます。
音がスムーズに出るようなら、スタッカートで「スッ スッ スッ スッ」とリズミカルに鳴らしてみたり、ロングトーンで「スーーーーーー」と長い音を鳴らしてみましょう。破裂音と違って、摩擦音は息を完全に止めることがないので、ロングトーンを鳴らすことができます。(カ行の子音「k」ではできませんね。)

その際に、アゴやノドやクビなど、他の部分で必要以上に動きを強調したりしていないか?s音を出すことが呼吸を妨げていないか?点検もしてみましょう。滑舌のために必要以上の努力をすることは、表現力を削ぎ落とすことに繋がります。自分の思いをしっかりと伝えるために、滑舌は最低限の努力でこなせるようにしておきましょう。

母音と繋げる

子音がスムーズに鳴らせるようになったら、母音と繋げていきます。

s音から母音に繋げて「サ」「シ」「ス」「セ」「ソ」が全てスムーズに発音できるかチェックしてみましょう。

一つずつ試すと、「サ」と「シ」の子音の違いがよくわかるのではないかと思います。

実際の言葉にする

実際にサ行の言葉を喋ってみます。
言いたい言葉で試してみましょう。(一応早口言葉も再掲しておきます)

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スムーズに言えましたか?

うまく言えない場合は、自分がどこでつまずいているのか再点検してみましょう。

子音が鳴らせるか?→子音の出し方を再確認しましょう
子音は大丈夫けど、母音との連結がうまくいかないのか?→母音に原因があるかもしれません
サ行1つ1つは大丈夫だけど、早口言葉でつまずく→音と音の連結を重点的にチェックしてみましょう

それでもサ行が苦手・・

サ行の発音には”歯並び”も大きな影響を及ぼします。
歯と歯の間に隙間が大きくて息が漏れるような場合は、どうしてもクリアな発音はできませんので、もし歯並びに原因がありそうな場合は矯正歯科へご相談いただくのも手かもしれません。

実際、私も歯並びが悪くサ行が苦手でしたが、歯列矯正を行うことでだいぶ改善されました。また、サ行に関わらず他の音にも影響が出ると思います。それから、これは余談ですが、顔の印象も大きく変わりました。歯並びが悪いとどうしてもマヌケや愉快、風変わりといった印象になりやすいです。(個性として活かせる場合もありますが、ポジションが固定されやすいというデメリットもあります。)

声を仕事にされる方で歯並びに難がある場合は、歯列矯正を検討されると良いかもしれません。仮に声の仕事をしないとしても、様々なメリットがありますし。

話している最中のMRI

Youtubeで、話している最中のMRIの動画を見つけました。
口中の動きを自分で見ることはできないので、こういった動画は大変参考になります。

舌、顎、軟口蓋の動きはとっても大きいですね。
一方で、上の歯にはあまり動きがないこともわかります。

正確な発音のためには、口の中をどのように動かす必要があるのか、という知識が役立ちます。
発声指導にはどうしてもイメージが多く用いられます。それはもちろん有益であるからですが、こういった「事実」がわかっていると、間違った指導に騙されずにすみますし、イメージによって何を実現しようとしているのか?がわかるようになってきます。

滑舌の改善法2 カ行(&母音の無声化)

カ行=日本語音声の「かきくけこ」の発声について学んでいきましょう。

まずは早口言葉をひとつ
菊桐菊桐三菊桐 合わせて菊桐六菊桐

スムーズに言えたでしょうか?

カ行の特徴は「クッ」という弾けたような息の音です。
この音が一つだけなら大丈夫でも、続くと苦手という方は意外に多いです。正しいやり方を練習して、カ行の滑舌をマスターして行きましょう。

カ行の音はどうやって出すのか?

さて、カ行の音はどうやって作られているのでしょうか。
まずは「かきくけこ」と実際に発声してみて、自分がどうやってこの音を出しているのか?観察してみましょう。

唇は?顔面は?あごは?舌は?口の中は?喉は?実際にどんな動きをしていたでしょうか。自分が実際にやっていることを知ることは、より良く変わっていくための大事な一歩です。ゆっくり観察して見ましょう。

カ行の子音は「軟口蓋」と「舌」で作る

カ行の子音(以下k音とします)は、基本的に「軟口蓋と舌の奥側が接触し、離れる」ことでその音を作っています。

軟口蓋って??という方は以下の画像をご覧ください。

軟口蓋は、口の中の上部、後ろ側の部分です。

まずは軟口蓋がどこにあるかを確認してみましょう。
舌で、上の歯の裏側から、口の中の上部の壁に沿わせて後方になぞっていきます。歯のすぐ後ろ側は硬い壁になっていますが、後ろの方に行くと柔らかくなっていることがわかるかと思います。そこが「軟口蓋」です。(硬い部分は「硬口蓋」と言います)。いわゆるのどちんこがぶら下がっているところです。硬口蓋と軟口蓋が、口の中のドーム状の”屋根”を形成しています。

Wikipediaによると以下の記述があります。

音声学的には、か行各音の頭子音は無声軟口蓋破裂音 [k] で、舌の後部を口蓋の奥の部分(軟口蓋)に押しあて一旦閉鎖した上で破裂させることで発する無声子音である。ただし、「き」の頭子音は硬口蓋化するため、調音点が他のか行音より前方推移し、後部硬口蓋になる。

基本的にk音は軟口蓋と舌によって作りますが、音によっては軟口蓋ではなく、硬口蓋が使われます。言葉は前後の音によって微妙に変化するので、あまり厳密には考えず「カ行は、舌が口の上後方に触れて、離れる、という動きが必要」ということだけ押さえておけば大丈夫です。

軟口蓋の役割

少し蛇足ですが、軟口蓋の役割についていくつか説明をしておきます。

軟口蓋の一番大事な役割は「鼻と口の間を塞ぐこと」です。
なぜか?それは物を食べる時に鼻から逆流しないためです。

私たちが物を飲み込む時に、反射的に軟口蓋が上に持ち上がり、口と鼻の間を塞いでくれています。このおかげで、口から食べた物が鼻に上がってこれなくなり、スムーズに胃に送り込むことができるようになっています。

声を出す時に使っている器官は、物を食べる時に使っている器官がほとんどなので、意外に食事と声って関わりがあったりします。

また、軟口蓋が鼻と口の間を塞いでくれることで、鼻に息が抜けていかずに済みます。声が鼻にかかっているのは、軟口蓋が上がっていないので息が鼻に抜けているということです。鼻にかけない音を出すためには、軟口蓋がしっかりと働いている必要があります。

さらに、軟口蓋が上がると口の中の空間が広がりますから、音としてもオープンで明るい音にも繋がってくると思います。

発声練習にあくびが取り入れられることがあります。あくびは軟口蓋をあげて口の中を広げる効果があります。鏡を見ながらあくびをしてみると、軟口蓋が上がる様子が確認できます。

k音は「無声子音」

k音は無声子音、つまり「声帯の振動を伴わない音」です。

試しに、のどぼとけに手を当ててk音だけを出してみましょう。
「かきくけこ」のアイウエオ抜きで、「クッ」という音だけを鳴らしてみます。声帯が震えていないのがわかると思います。

今度は、同じようにのどぼとけに手を当てながら「がぎぐげご」のアイウエオ抜きで、g音を出してみます。今度は声帯が震えるのが感じ取れたかと思います。

この違いは声帯の状態によって生じています。
カ行の子音であるk音を作る時は、声帯が開いている状態です。
一方でガ行の子音であるg音では、声帯が閉じており、息が通過する時に声帯が振動しています。

k音を練習する

理論がわかったらあとは実践あるのみ!
実際に音を出してみましょう。

まずはスムーズに子音が発音できるようになりましょう。
舌の奥側が上に上がり、軟口蓋にタッチします。そして舌が離れる時に息が流れ「クッ」という音が生まれます。

最初は1音ずつ丁寧に。
慣れてきたら「クックックックッ」と続けてリズミカルに音が出せるように練習しましょう。

スムーズに音が出せない時は力づくで練習せず、基本に立ち返って1音ずつ。基本の型を練習することが一番の上達への近道です。野球の素振りなどと一緒ですね。

最小限の動きで、頑張らずにラクに出せるようになるとスピードも上げられるようになり音もクリアになっていきます。滑舌に無駄な力を使わずに済むと、表現力もいつの間にか高まっていきます。滑舌は声を使う表現者の基礎体力。合理的なフォームを練習すれば確実に良くなりますから、コツコツ続けていきましょう。

軟口蓋のエクササイズ

ここまで読んで軟口蓋に興味が湧いたマニアックな方(笑)や、声の鼻抜けや暗さにお悩みの方向けに、軟口蓋のエクササイズをご紹介します。

軟口蓋の動きを理解する
・鼻を手で軽くつまみ「ナー」と音を出す。鼻に音が響いていることを確かめる
・鼻をつまんだまま音を「アー」に変化させる。鼻の響きがなくなることを確かめる

「ナー」と鼻にかかる音を出している時、軟口蓋は下がっていて空気が鼻に抜けることができます。
一方、「アー」と、鼻に抜けない音を出している時は軟口蓋が上がっていて、息は鼻に抜けません。

声が鼻に抜けがちな人は、これをよく練習すると良いです。
また、母語がフランス語など、鼻母音を使うような習慣がある場合は、鼻音と非鼻音を区別するためにいいエクササイズになると思います。

ストローで息を吸い込む
単純ですが、軟口蓋が挙上する動きを感じやすいと思います。

あくびをする
これも軟口蓋が上がり、口の中の空間が広がります。
あくびをしながら声を出す遊びも楽しいです。
声が暗い、響かないと思う方は新しい発見ができるかもしれません。

母音の無声化について

カ行の滑舌と付随して、母音の無声化という問題があります。
母音の無声化とは、無声子音に挟まれた母音「イ」「ウ」は無声化するという日本語の特性のことです。

無声子音とは、声帯が振動しない子音のことです。カ行の子音は無声子音です。(サ行、タ行、ハ行なども該当します。)

例えば「機械」という言葉を例に取ってみましょう。
機械を子音と母音に分割して、便宜的に「k i k a i」と表現することにします。

k ( i ) k a i

先の無声化ルールに照らし合わせてみると、2つの無声子音kの間に、母音「イ」が挟まれていることがわかります。そのため、一つ目の「イ」が無声化します。

通常の「キ」は声帯の振動を伴いますが、無声化するため声帯の振動を伴わない「キ」に変化するということです。

一方、2つ目の「イ」(最後の音)は、このルールに合致しないため、通常の有声音の「イ」と発音されます。

理解できましたか?
特に関西の方などはこの無声化を行わない特徴がありますので、標準語でのアナウンス等や、そういったキャラクターを演じる際にこの無声化で苦戦することがあります。習慣がない方はいざ使おうとするとうまくいかなかったりするので、技術として習得しておくと良いでしょう。

ただ、必ずしも母音の無声化を行うことがいいとも限りません。歌を歌うときなどは無視されることもありますし、しっかり声を届けるためにあえて有声音を発した方が有利なこともあります。中国の方のモノマネをする時などは、だいたい無声化をしないように喋りますね。一方で、しっかり無声化をした方が場面に合うケースもあります。

特徴をつかんで使い分けができるようになるのがベストです。

はじめに挙げた早口言葉はこの無声化の嵐です。(カ行よりもむしろ無声化が課題という方も多いかもしれません。)
無声化が苦手という方は、それも意識して改めて練習に取り組んでみましょう。

菊桐菊桐三菊桐 合わせて菊桐六菊桐!

どうしてもカ行を克服できない場合

ここに書いてあるやり方を丁寧に行えば、かなりの確率で効果が出ると思っています。しかし、一人一人の状態は違いますから、もしうまくいかないという場合は、何か滑舌を阻害する原因があるので、専門家の助けを求めるのが一番です。個別指導も承っておりますので、自分で解決できない場合はどうぞご相談ください。

滑舌の改善法1 母音

最近レッスンをしているスタジアムDJの方と「滑舌」の改善に取り組んでいますが、レッスンを続けていく中で必要な要素がクリアになってきたので、記事にまとめてみようと思います。

滑舌を改善するには、次の3つの点を意識して取り組む必要があります。

  • 適切な調音の技術が身についていること
  • 伝えたいことがはっきりしていること
  • 全身の協調状態が良いこと

今日は1つ目の「調音」についてです。

「調音」とは口、舌、唇などの調音器官を使って、声を言語として認識できる音に調整することを言います。(一般的に「滑舌」と言われているものだと思います。)

「滑舌が悪いです」とおっしゃる方は、大半がこの調音の機能を改善したいと思っていると思います。では調音を改善するにはどうしたらいいのかと言うと、答えは「どうしたらその音が出せるのか?」を知り、それを練習すること。これに尽きます。

音の出し方についてはIPA(国際音声字母 International Phonetic Alphabet)が大変参考になります。

日本語の滑舌を良くしたいと思っている人は、まず母音の出し方を知り練習するのが最も効果的だと思います。

リンク先の表を参考に、舌の位置、口の開き、唇を確認してみましょう。
http://www.coelang.tufs.ac.jp/ipa/vowel.php

「イ」は舌が上前で口の開きは狭い
「エ」は舌がやや上やや前で口は半狭です。
「ア」は舌が下で中ぐらい、口は広く開きます。

このポジションを参考に、最も楽に、その母音が聞こえるために必要な動きを練習してみましょう。音を出したまま「イ」⇨「エ」⇨「ア」と徐々に変化させていくと、口や舌の動きがわかりやすいと思います。イとエの中間の音を出してみるという遊びもぜひやってみてください。

ポイントは正しさにこだわらないことと、楽にできることです。慣れないうちのやりづらさは仕方がありませんので、そこはあまり気にしないほうが良いです。(良いやり方を練習して、そっちに慣れていきます。これはある程度時間がかかります。)

「ウ」と「オ」も同様に練習しましょう。

「ウ」は舌が上奥で口の開きは狭いです。
「オ」は舌がやや上、奥で口は半狭です。また、唇を丸める必要があります。

唇を丸める「オ」は円唇母音と言われ、日本語の母音では「オ」だけが該当するようです。

私の場合は「ウ」も丸めてしまいますが、西日本は「ウ」で唇を丸める傾向にあり、東日本ではあまり丸めない傾向があるんだとか。面白いですね。まぁ、やり方は無限にあるので問題がなければあまり気にしなくてもよいかと思います。

舌の動きは自分の感覚だけでは捉えづらいこともありますから、前述の音とともに舌の位置を変えていく方法や、キャンディの棒などを舌の上に乗せて音を出してみる方法がおすすめです。

※このやり方はこちらのサイトを参考にさせていただきました。音声に関してとても勉強になりました。
http://user.keio.ac.jp/~kawahara/hitsuji2017.html

日本語の音はほぼ全て「アイウエオ」の母音を使いますから、まず母音をクリアにしていくことが滑舌改善の早道です。すぐに良くなる特効薬はありませんが、やり方を知り、コツコツ練習すれば必ず良くなるものです。

駆け出しの俳優さんなど、ひたすら「外郎売り」を繰り返し練習している方をよくお見かけしますが、あれはただ繰り返しても滑舌が良くなることは無いと思っています。(外郎はひたすら売ったのに、滑舌が全く良くならなかった人を何人も知っているからです。)
ただ、発声練習や自分の滑舌の状態チェックに使うのは良いと思います。外郎を売ってみて、言えない言葉があれば適切なやり方を練習し、改善されたらまた試す、というような使い方がおすすめです。

母音がキレイに出るようになれば、滑舌はかなりよくなります。諦めずに続けていきましょう。

それから、滑舌を良くしたいという方には必ずお伝えしていることがあります。
それは「何のために滑舌を良くするのですか」ということです。

滑舌は、言語をクリアに伝えるための手段です。では、言語がクリアになればどんなメリットがあるのでしょうか?それは伝えたいことがより伝わりやすくなるから、ということではないでしょうか?

つまり、滑舌は手段に過ぎず本当の目的は「何かを伝えること」にあるはずです。滑舌が良くなっても、伝えたいことが伝わらなかったら意味がありませんよね?

そういうわけで、滑舌を練習するとともに忘れてはいけないことは、ことばには目的があるということなのです。冒頭に、滑舌以外の要素を挙げたのはそういう理由です。これも、滑舌と一緒に訓練する必要があります。

続きはまた次回。