喉詰め発声を抜け出す

一般的に、良い声を出すためには”喉をひらく”ことが重要であると言われています。一方で、悪い声を表す言い回しとして”喉をつめる”や”喉をしめる”という言葉があります。

小劇場で必死になって声を出している俳優や、カラオケで自分の音域を大きく超えた歌を歌おうとしている人などに見られますが、まるで喉を絞められているかのように必死の形相で声を絞り出している姿を見ることがあります。このエントリでは、このような声の出し方を”喉詰め”と表現し、いかに喉詰めを脱却するかということを書いていきます。

喉詰め発声は、出している本人にとって苦しく、喉を痛める原因にもなります。
また、聞いている人にとってもあまり良い気持ちではありません。喉詰め発声を抜け出して、伸びやかで自由に表現できる声を育んでいきましょう。

喉を詰めるってどういうこと?

簡単に言えば、喉周りの筋肉を強く使いすぎることで、喉の空間を狭めてしまうことです。これによって息の流れが妨げられますし、響きも悪くなってしまいます。

1つ動画をご紹介します。
これは様々な種類の声を出している時の喉頭(のどぼとけの辺り)を上から内視鏡で覗いている図です。(※苦手な人は無理に見なくても大丈夫です。)

クリアな声を出している時と、喉詰め的な声の時には空間の広さが大きく異なるのがわかると思います。

以下は動画から部分的に抜き出した画像です。
通常時と、高音で絶唱している時の喉の違いがよくわかりますね。

通常の声
高音絶唱

この動画の方の場合は狙ってこういう音を出しているので、悪い例というわけではありません。むしろ、通常の音の響かせ方を逆手に取って、意図的に人間らしくないサウンドを生み出すことに成功しています。

こういった声の出し方も非常に興味深いですが、今回は「喉詰め発声から抜け出す」がテーマですので、ここでは喉詰め発声をしている時は、緊張によって喉を絞めつけていることを理解いただければと思います。

喉詰め発声の弊害

では喉詰め発声は何がいけないのでしょうか?
いくつか問題点を列挙してみます。

・苦しげに見える、聞こえる。
緊張状態が強いために、顔は必死で動きが硬く「頑張り」が強く現れるので見ていて苦しさが伝わってきます。音も苦しいので、あまり聞きたくないと思われてしまいます。

・実際に苦しい。
声を出している本人も必要以上にパワーを使っているので、実際に苦しさを感じます。

・体全体の動きが硬くなる。感覚が鈍くなる。
首回りの過緊張は、全身の動きに悪影響を及ぼし動きを制限します。また、外部からの情報を受け取りづらくなってしまうので、周囲の状況と切り離されてひとりよがりな表現になりがちになります。

・喉を痛める。
過緊張で喉が狭く、共鳴が悪くなり声が弱くなります。
しかし喉を詰めてまで声を出したい時というのは、往々にしてパワーが必要な画面です。例えば歌の一番盛り上がるところや、セリフで感情が強く出るシーンなど。
鳴りが悪くなっているのにパワーが必要なので、息を強く送り出すことで解決を試みます。その結果、過度な負担を受けた声帯がダメージを受けてしまいます。

解剖学的にさらに補足すると、喉詰め発声の時には喉頭の引き上げが起こっています。喉頭の引き上げは普段の生活では物を飲み込む時に重要な動きです。それは、喉頭を引き上げることで喉頭蓋で気道にフタをして、食べ物や飲み物が気道に入らないように防いでくれているからです。

物を飲み込む時の喉頭の動きを動画で見てみましょう。

ゴクリと飲み込んだ時に、喉仏がぐっと上に引き上げられるのがわかるかと思います。この喉頭が引き上げられている時、喉頭蓋が気道にフタをします。
物を飲み込む時には屋根のように気道を守ってくれますが、声を出す時にはそのフタが邪魔になってしまいます。音の通り道に邪魔者があったらどうなるか、想像は容易いですよね。

どうして喉を詰めてしまうのか

原因は人それぞれなので一概には言えませんが、特に声のパワーが必要な時に、力任せに声を出してしまうことが挙げられます。

例えば経験の少ない俳優が、大きな声を出すシーンを演じる場合などですね。
声が小さいと演出家から「声が小さい!」とNGをもらうことになります。未熟な俳優は全身の力を振り絞って、喉を詰めてあらん限りの声を張り上げてようやくOKをもらう、そしてその体験が「こうやって大きい声を出すんだ」という習慣を作り出して行く、ということが起こります。

強い声を出すために息を早く大量に吐くというのはひとつの(乱暴な)やり方です。しかし息が強い分だけ、喉にも支えが必要になります。本来は喉頭を引き下げる筋肉や引き上げる筋肉など、多くの筋肉がバランスを取って支えを作る必要がありますが、そういった能力が発達していない場合に、物を飲み込むという使い慣れた動きで代替して、喉を引っ張り上げて強引に支えを作ってしまうのではないかと思っています。

どうしたらいいのか?

アゴの力が抜けて緩んでいると、かなり改善されます。
声を出す時に、アゴがラクに開きながら声を出す。これだけでも喉詰めを防いでくれます。一つエクササイズを紹介します。

普段から噛みしめるクセがある場合などは、意識的にアゴを緩めるだけでも発声はかなり変わってきます。

当然ことばを作るためにはアゴの動きが必要ですが、まず自由なアゴを準備しておき、そこからことばを作るのに必要なだけアゴを使ってあげましょう。アゴは言葉を作るのには使いますが、良い声を響かせるためには、なるべく休んでいてもらいたい部位です。普段から喉詰めの習慣がある方は、一旦アゴを緩めきって、まともな言葉を喋れないぐらいフニャフニャなまま喋ってみても面白いと思いますよ。

それでも喉詰めの傾向が強い方は、今度は舌、顔、をリラックスさせて声を出す方法を身につけていきましょう。首から上はリラックスが大事です。(リラックスとは緩みきった脱力ではなく、しっかりとハリがあり、いつでも準備ができていることです。)

一方で声のパワーを作り出すのは呼吸。なので、物理的には胴体に働いてもらう必要がありますが、さらに大事なのは大きな声を出す”欲求”にあります。その欲求が呼吸を生み、結果としてパワーが生まれます。その時に、アゴや舌や顔は、柔軟で、その欲求から生まれたパワーを妨げないことが自由な発声をする鍵になります。

まとめ

対症療法的な喉詰め防止:アゴを緩めて自由にする

根本的に発声を改善したい場合は、部分ではなく全身で、さらに感情など精神的なもの含めて自分のすべてが有機的に結びついて声を出す能力を育てる必要があります。
アゴだけでなく、舌、顔、首、呼吸その他すべてを自在に使えるように日頃から基礎練習をすることや、感じたことを素直に声にできるようにハードウェア・ソフトウェアの両面から訓練をしましょう。

参考

喉頭蓋の解剖学的特徴に基づく嚥下咽頭期における運動の実際(川 上 嘉 明、 小 泉 政 啓、 秋 田 恵 一)
https://www.tau.ac.jp/outreach/TAUjournal/2014/02-Kawakami-1.pdf

うたうこと(フレデリック・フースラ、/イヴォンヌ・ロッド=マーリング/訳:須永義雄、大熊文子)
「医師」と「声楽家」が解き明かす発声のメカニズム(萩野仁志、後野仁彦)

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