カ行=日本語音声の「かきくけこ」の発声について学んでいきましょう。
まずは早口言葉をひとつ
菊桐菊桐三菊桐 合わせて菊桐六菊桐
スムーズに言えたでしょうか?
カ行の特徴は「クッ」という弾けたような息の音です。
この音が一つだけなら大丈夫でも、続くと苦手という方は意外に多いです。正しいやり方を練習して、カ行の滑舌をマスターして行きましょう。
カ行の音はどうやって出すのか?
さて、カ行の音はどうやって作られているのでしょうか。
まずは「かきくけこ」と実際に発声してみて、自分がどうやってこの音を出しているのか?観察してみましょう。
唇は?顔面は?あごは?舌は?口の中は?喉は?実際にどんな動きをしていたでしょうか。自分が実際にやっていることを知ることは、より良く変わっていくための大事な一歩です。ゆっくり観察して見ましょう。
カ行の子音は「軟口蓋」と「舌」で作る
カ行の子音(以下k音とします)は、基本的に「軟口蓋と舌の奥側が接触し、離れる」ことでその音を作っています。
軟口蓋って??という方は以下の画像をご覧ください。
軟口蓋は、口の中の上部、後ろ側の部分です。
まずは軟口蓋がどこにあるかを確認してみましょう。
舌で、上の歯の裏側から、口の中の上部の壁に沿わせて後方になぞっていきます。歯のすぐ後ろ側は硬い壁になっていますが、後ろの方に行くと柔らかくなっていることがわかるかと思います。そこが「軟口蓋」です。(硬い部分は「硬口蓋」と言います)。いわゆるのどちんこがぶら下がっているところです。硬口蓋と軟口蓋が、口の中のドーム状の”屋根”を形成しています。
Wikipediaによると以下の記述があります。
音声学的には、か行各音の頭子音は無声軟口蓋破裂音 [k] で、舌の後部を口蓋の奥の部分(軟口蓋)に押しあて一旦閉鎖した上で破裂させることで発する無声子音である。ただし、「き」の頭子音は硬口蓋化するため、調音点が他のか行音より前方推移し、後部硬口蓋になる。
基本的にk音は軟口蓋と舌によって作りますが、音によっては軟口蓋ではなく、硬口蓋が使われます。言葉は前後の音によって微妙に変化するので、あまり厳密には考えず「カ行は、舌が口の上後方に触れて、離れる、という動きが必要」ということだけ押さえておけば大丈夫です。
軟口蓋の役割
少し蛇足ですが、軟口蓋の役割についていくつか説明をしておきます。
軟口蓋の一番大事な役割は「鼻と口の間を塞ぐこと」です。
なぜか?それは物を食べる時に鼻から逆流しないためです。
私たちが物を飲み込む時に、反射的に軟口蓋が上に持ち上がり、口と鼻の間を塞いでくれています。このおかげで、口から食べた物が鼻に上がってこれなくなり、スムーズに胃に送り込むことができるようになっています。
声を出す時に使っている器官は、物を食べる時に使っている器官がほとんどなので、意外に食事と声って関わりがあったりします。
また、軟口蓋が鼻と口の間を塞いでくれることで、鼻に息が抜けていかずに済みます。声が鼻にかかっているのは、軟口蓋が上がっていないので息が鼻に抜けているということです。鼻にかけない音を出すためには、軟口蓋がしっかりと働いている必要があります。
さらに、軟口蓋が上がると口の中の空間が広がりますから、音としてもオープンで明るい音にも繋がってくると思います。
発声練習にあくびが取り入れられることがあります。あくびは軟口蓋をあげて口の中を広げる効果があります。鏡を見ながらあくびをしてみると、軟口蓋が上がる様子が確認できます。
k音は「無声子音」
k音は無声子音、つまり「声帯の振動を伴わない音」です。
試しに、のどぼとけに手を当ててk音だけを出してみましょう。
「かきくけこ」のアイウエオ抜きで、「クッ」という音だけを鳴らしてみます。声帯が震えていないのがわかると思います。
今度は、同じようにのどぼとけに手を当てながら「がぎぐげご」のアイウエオ抜きで、g音を出してみます。今度は声帯が震えるのが感じ取れたかと思います。
この違いは声帯の状態によって生じています。
カ行の子音であるk音を作る時は、声帯が開いている状態です。
一方でガ行の子音であるg音では、声帯が閉じており、息が通過する時に声帯が振動しています。
k音を練習する
理論がわかったらあとは実践あるのみ!
実際に音を出してみましょう。
まずはスムーズに子音が発音できるようになりましょう。
舌の奥側が上に上がり、軟口蓋にタッチします。そして舌が離れる時に息が流れ「クッ」という音が生まれます。
最初は1音ずつ丁寧に。
慣れてきたら「クックックックッ」と続けてリズミカルに音が出せるように練習しましょう。
スムーズに音が出せない時は力づくで練習せず、基本に立ち返って1音ずつ。基本の型を練習することが一番の上達への近道です。野球の素振りなどと一緒ですね。
最小限の動きで、頑張らずにラクに出せるようになるとスピードも上げられるようになり音もクリアになっていきます。滑舌に無駄な力を使わずに済むと、表現力もいつの間にか高まっていきます。滑舌は声を使う表現者の基礎体力。合理的なフォームを練習すれば確実に良くなりますから、コツコツ続けていきましょう。
軟口蓋のエクササイズ
ここまで読んで軟口蓋に興味が湧いたマニアックな方(笑)や、声の鼻抜けや暗さにお悩みの方向けに、軟口蓋のエクササイズをご紹介します。
軟口蓋の動きを理解する
・鼻を手で軽くつまみ「ナー」と音を出す。鼻に音が響いていることを確かめる
・鼻をつまんだまま音を「アー」に変化させる。鼻の響きがなくなることを確かめる
「ナー」と鼻にかかる音を出している時、軟口蓋は下がっていて空気が鼻に抜けることができます。
一方、「アー」と、鼻に抜けない音を出している時は軟口蓋が上がっていて、息は鼻に抜けません。
声が鼻に抜けがちな人は、これをよく練習すると良いです。
また、母語がフランス語など、鼻母音を使うような習慣がある場合は、鼻音と非鼻音を区別するためにいいエクササイズになると思います。
ストローで息を吸い込む
単純ですが、軟口蓋が挙上する動きを感じやすいと思います。
あくびをする
これも軟口蓋が上がり、口の中の空間が広がります。
あくびをしながら声を出す遊びも楽しいです。
声が暗い、響かないと思う方は新しい発見ができるかもしれません。
母音の無声化について
カ行の滑舌と付随して、母音の無声化という問題があります。
母音の無声化とは、無声子音に挟まれた母音「イ」「ウ」は無声化するという日本語の特性のことです。
無声子音とは、声帯が振動しない子音のことです。カ行の子音は無声子音です。(サ行、タ行、ハ行なども該当します。)
例えば「機械」という言葉を例に取ってみましょう。
機械を子音と母音に分割して、便宜的に「k i k a i」と表現することにします。
k ( i ) k a i
先の無声化ルールに照らし合わせてみると、2つの無声子音kの間に、母音「イ」が挟まれていることがわかります。そのため、一つ目の「イ」が無声化します。
通常の「キ」は声帯の振動を伴いますが、無声化するため声帯の振動を伴わない「キ」に変化するということです。
一方、2つ目の「イ」(最後の音)は、このルールに合致しないため、通常の有声音の「イ」と発音されます。
理解できましたか?
特に関西の方などはこの無声化を行わない特徴がありますので、標準語でのアナウンス等や、そういったキャラクターを演じる際にこの無声化で苦戦することがあります。習慣がない方はいざ使おうとするとうまくいかなかったりするので、技術として習得しておくと良いでしょう。
ただ、必ずしも母音の無声化を行うことがいいとも限りません。歌を歌うときなどは無視されることもありますし、しっかり声を届けるためにあえて有声音を発した方が有利なこともあります。中国の方のモノマネをする時などは、だいたい無声化をしないように喋りますね。一方で、しっかり無声化をした方が場面に合うケースもあります。
特徴をつかんで使い分けができるようになるのがベストです。
はじめに挙げた早口言葉はこの無声化の嵐です。(カ行よりもむしろ無声化が課題という方も多いかもしれません。)
無声化が苦手という方は、それも意識して改めて練習に取り組んでみましょう。
菊桐菊桐三菊桐 合わせて菊桐六菊桐!
どうしてもカ行を克服できない場合
ここに書いてあるやり方を丁寧に行えば、かなりの確率で効果が出ると思っています。しかし、一人一人の状態は違いますから、もしうまくいかないという場合は、何か滑舌を阻害する原因があるので、専門家の助けを求めるのが一番です。個別指導も承っておりますので、自分で解決できない場合はどうぞご相談ください。